無線LANを広く使う方式の比較 (メッシュ 中継機 ローミング)

はじめに

  • 家に無線LANが届かない部屋があるんだけど、色々エリアを伸ばす方法があってよくわからないんだよね。という話があり、解説を書くことにしました。
  • 仕組みを簡単に説明しつつ、どの場合はどの方式を使うのが一番良いのかについて説明していきます。

仕組みの説明

ローミング

ローミングとは、複数の同一のSSID及び暗号化設定を行った無線LAN APを信号強度・信号品質などから自動的に判断して、クライアントが切り替える仕組み
日常的に利用するものとしては、新幹線や高速道路で高速移動しているときに携帯の通話が切れないように基地局を切り替えていく仕組みとだいたいほとんど同じ仕組みにです。

ローミングの解説

中継機

中継機とは、無線LANのアクセスポイントのエリアを広げる方法の1つで、今ある無線LANの電波を中継して、エリアを広げる仕組み。

イメージとしては、APさんが「熊が出た、逃げろー」と叫ぶと、それを聞いた中継機さんが「熊が出た、逃げろー」と再度叫んで、APさんからの声が直接届かない人に伝えたいことを伝えているような姿を想像すれば良い。

つまり、中継機は「電波が届かない場所」に設置するのではなく、電波を届けたい場所との間に設置して、APと中継機の間の通信が確保される必要がある。

中継機の解説

中継機の正しい使い方と正しくない使い方を図として表示する。

正しい使い方

以下の例では、中継機がアクセスポイントからの電波が届く範囲にあるため、中継機に接続したクライアントも中継機を経由してインターネットへ接続することができる。

中継機の正しい使い方

正しくない使い方

以下の例では、中継機がアクセスポイントからの電波が届かない範囲にあるため、中継機に接続したクライアントは中継機から先に進むことができず、インターネットへ接続することができなくなる。

中継機の間違った使い方

中継機の場所選び

アクセスポイントからの電波が届かない場所や、非常に弱く安定しない場所に中継機を設置した場合、その不安定な電波を中継することになる。スマートフォンやノートPCなどを利用して、電波強度が問題なく十分な通信速度が確保できる場所 かつ スピードテストの結果がさほど悪くない場所に設置するのがベストな場所となる。

以下の例では、設置場所として的確な場所は②となる。それ以外の場所が適さない理由としては以下の通り
① アクセスポイントに近すぎる。中継しても電波が届かない会議室Cまで電波が届かないため、使える状態になることはない。
③ 信号強度/通信速度とも不安定な場所に設置した場合、その不安定な電波を中継することとなり、快適な通信はできない。
④ そもそもアクセスポイントに接続ができないため、中継機に接続したクライアントはインターネットへ接続することができない。設置場所としては不適切というより、論外となる。

中継機の置き場

メッシュ

中継機が複数あるような場合、インターネットへ接続するアクセスポイント(ここではmasterと表記)への適切な経路を選ばなければ通信が不安定になる、正しくない経路で接続してインターネットに疎通できなくなるといった事が起きる。masterへの経路を自動的に設定する機能を有する機材がメッシュとなる。

また、メッシュではクラスタを組んでいるAP同士で接続クライアントの情報を共有/仲介するなどを行うことによってクライアントのローミングを促す機能が備わっているものがある。

自動的な経路設定

以下の構成の場合に、Slave3からmasterに向かって疎通を行う場合はどの経路で通信するのが一番良いのかを考えるとした場合、以下のような条件の場合はどうなるか考えてみよう。

  • slave1 - slave2 (接続C) : 安定して接続は可能だが、電波は少し弱い
  • slave1 - slave3 (接続D) : 接続はできるが、電波が非常に不安定である。
  • slave2 - slave3 (接続E) : 安定して接続は可能だが、電波は少し弱い
  • master - slave1,2 (接続A, B) : 安定して接続が可能、電波も良好
  • master - slave3 : そもそも繋がらない

構成例

考え方としては、Slave3 から master に向けて ① 接続の安定性 ② master までに経由するAPの数 の2つの点を見ながら選択してく。

  1. slave3 は slave1への通信は安定してできないが、slave2への通信は安定しているので、接続E を選択する
  2. slave2 は slave1, master への通信は安定しているが、 slave1 への経路 (接続C) を利用すると、中継点が1つ増えるので master と直接接続する経路(接続B)を利用する。

このような判断を、人間が手動で行った場合は「検証」と「計測」、「設定」を行う必要があり、非常に難易度が高い作業となる。 また、slave を追加した場合は、masterの位置を変更した場合に逐一 検証と計測、再設定を行う必要があり、非常に面倒くさい。

そこで、それらの作業をグルーピングしたAPの中で「自動的に計算/修正する機能をもたせた中継機の集団」を構成するのがメッシュというものになる。

バックホールとして有線LANを共存させる

メッシュの機材は、バックホールとして有線LANと無線LANを混在させることが可能な機材もあるため、電波を通さない(例えば、鉄筋コンクリート)壁を超えたい場合、階層を超える場所など、電波が通りにくい箇所に有線LANを利用することでより効率よく通信ができるようにすることもできる。

たとえば、階段の踊り場まで有線LANを配線して、そこから更に電波が弱くなっている場所に向けてslaveを設置するという方法も可能。

一部の接続を有線LANで構成することも可能

逆に、階段区間にケーブルを這わせず、2Fだけ有線LANで接続するのようなこともできる。

一部の接続を有線LANにするその2

効率的なローミングを行う

メッシュWi-Fiには以下のような機能が備わっている。元々は複数APを運用することを前提として業務用の集中管理型無線LANに備わっている機能であるが、メッシュ型Wi-Fiではこのような高度な機能をユーザが特に設定することなく利用できるようになる。

  • ローミング対象APの情報をクライアントへ通知することで、クライアントがローミング先のスキャンを行わずに対象APへ接続を行えるようにすることにより、ローミング時の接続時間の短縮を行う
  • ローミング先のAPと現在接続中のAPを中継して事前に接続ネゴを行い、最終フェーズのみローミング先のAPで行うことにより、ローミング時の接続時間の短縮を行う
  • AP同士で接続されてるクライアントの情報を共有し、クライアントの信号強度等を考慮して他のAPへローミングしたほうが効率よく通信できると判断できる場合に、ローミングを促す

どの方式も、違いはクライアントが接続したAPからインターネット側のバックホールだけ

メッシュにしろ、中継機にしろ、クライアントは自分から見える一番電波の強いAPを自動的に選択することで、APまでの通信を快適に行えるようにしている。

正確には、一度つながったAPとは一定の強さ以下にならない限りAPの切り替えは行われないが、接続が不安定なAPと繋いだままになることはクライアントが使っているOSがあまりにも古いとかでない限り、だいたいほとんどない。

  • 会社や学校などが導入しているAPのローミングは、有線LANをバックホールとして接続されるアクセスポイントが複数ある
  • 中継機は、中継機がアクセスポイントからの電波を中継するしてバックホールを作成する事によって、アクセスポイントに接続できるようにしている。
  • メッシュは、複数の中継機を利用して、一番快適な経路をバックホールとして自動的に選択して、masterへ接続する。

ローミング
中継機
メッシュ Wi-Fi

どれを選べばいいの?

仕組みによるが、次のとおりです。

  1. 有線LANが配線してあり、アクセスポイントを設置したい箇所に有線LANが配線してある場合は、バックホールとして有線LANを利用できるメッシュ型のアクセスポイントを設置する。
  2. 有線LANの配線がなく、家の一部に電波が届かない場所で無線LANを使いたい場合は、メッシュWi-Fiを購入する。
  3. 有線LANを配線できる場合は、可能な限り有線LANを利用する。有線LANは正義。

<追記内容>

昔の製品は中継器利用とメッシュ機材利用での大きな違いはバックホールの管理だけでしたが、今は接続している機材の強度等を考慮してローミングを促したり、ローミング先のAPとのネゴシエーションを中継するなど「快適な方のAPを利用できるようにする」「ローミングにかかる時間を短縮する」といった快適さ向上のための機能が多く導入されているため、有線LAN配線の有無を問わず複数箇所にアクセスポイントを設置したい場合は、メッシュ機能が備わっている機材を利用するのが良い。有線LANが整備されている場合は、必ず有線LAN接続が可能な機材を利用し、有線LANでメッシュ機材同士をつなぐこと。

「複数のAPを使いたい」「電波が弱い箇所があって電波の中継をしたい」などで中継機かメッシュWi-Fiかを考えているのであれば、メッシュ型に買い替えることが良いと考えられる。

有線LANが整備されており、無線LANアクセスポイントを追加したい場合はメッシュWi-Fi機能に対応している機材を購入し、徐々に置き換えていく方針を取るとよい。

中継機を導入することになる場合、下記のWi-Fi EasyMeshに対応している機種を購入してはじめは中継機として利用して、よしななタイミングで切り替えると良い。

余談

無線LANルーター時たま不安定になって再起動が必要になる

多くの場合では長年利用している機材であり、機材自体の老朽化の可能性がある。そのため、無線LANルーターを買い換えることを推奨する。一般的に家庭向け無線LANルーターは3年を目安に買い替えるとよい。

また、3万円の無線LANルーターを5年間使い続けるより1万円の無線LANルーターを2年に1回買い替えたほうが1回目の買い替え以降の満足度は高い。

負荷分散の話

家族が多い場合や、有線LANを含めて同時通信を行うクライアント数が5を超えるような場合、応答速度にこだわりがある場合等の「何らかの事情により、より高品質なネットワーク環境」を所望する場合は業務用有線LANルーターの中古をヤフオク等で調達して無線LANのアクセスポイントと外部と接続するルーターの機能を別筐体に分離してしまうと格段に快適に使えるようになることがある。

理由としては、以下の2つの機能を実現するための処理に関わる負荷が非常に高く、これらの機能を分離することで利用する機材に掛かる負荷を軽減すること(=処理に余裕をもたせること)ができる。

  1. 無線LANの暗号化処理
    無線LANは内容を盗み読まれたり、勝手に接続されたりしないようにするため暗号化を行う
  2. 外部接続に関わるNAPT処理
    プロバイダから払い出させるインターネットに接続するためのアドレスは原則1つであり、それを家庭内に存在する複数のコンピュータ等で共有できるようにする処理を行う

機材例

特に問題なく使えそうなのをピックアップしていくつか貼っておきます。比較的新しい(11n以降の)Atermはなんと、ルーター、コンバータ、中継機のどれにでもになるので、前使っていた無線LAN親機を中継機として使うなんてこともできます。

TP-Link?知らない子ですねぇ……。

Wi-Fi EasyMesh といった共通規格も存在しており、対応していればメーカーを問わずメッシュWi-Fiを組むこともできる。メーカーに依存することなくメッシュWi-Fiが組むことができるので、今後はWi-Fi EasyMeshに対応したものを購入するとよい